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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1234号 判決

本訴原告・反訴被告

芝田裕子

右訴訟代理人弁護士

小越芳保

滝沢功治

本訴被告・反訴原告

鶴甲コーポ一号館管理組合管理者

藤原昭三

右訴訟代理人弁護士

金野俊雄

主文

一  本訴原告(反訴被告)の本訴被告(反訴原告)に対する請求を棄却する。

二  反訴被告(本訴原告)は反訴原告(本訴被告)に対し、金一九四万四一二五円の支払いをせよ。

三  訴訟費用は本訴・反訴を通じ本訴原告・反訴被告の負担とする。

四  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の申立て

(本訴につき)

一  本訴原告・反訴被告(以下原告芝田という。)は、本訴請求の趣旨として、「鶴甲コーポ一号館管理組合の平成元年一月二二日開催の臨時集会における、別紙増築目録記載の増築工事(以下本件増築工事という。)を実施する旨の決議は、無効であることを確認する。」との判決を求めた。

二  本訴被告・反訴原告(以下被告管理者という。)は、本案前の答弁として本件訴の却下を求め、本案の答弁としては主文第一項と同旨の判決を求めた。

(反訴につき)

被告管理者は、反訴請求の趣旨として主文第二項と同旨の判決並びに仮執行宣言を求め、原告芝田はこれに対する答弁として請求棄却の判決を求めた。

第二  当事者の主張

一  原告芝田の本訴請求原因等

(本訴請求原因)

1(一) 別紙物件目録(二)記載の一棟の建物(以下鶴甲一号館という。)は、四〇個の専有部分の建物(以下本件区分建物という。)によって構成されているが、右区分建物の所有者(区分所有者)全員は、一棟の建物たる右一号館並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体として鶴甲コーポ一号館管理組合(以下本件管理組合という。)を結成している。

(二) 被告管理者は、別紙物件目録(四)記載の区分建物を所有し、本件管理組合の組合員たる地位を有するものであるが、平成二年一二月二日開催の本件管理組合の第二三回定期総会において理事長に選任され、本件管理組合の管理組合規約(以下本件規約という。)第七条により、建物の区分所有等に関する法律(以下区分所有法という。)第二五条所定の管理者に就任したものである。なお、右理事長の任期は、右規約により一年間である。

(三) 原告芝田は、別紙物件目録(三)記載の区分建物(以下原告建物という。)を所有する本件管理組合の組合員たるものである。

2 本件管理組合の平成元年一月二二日開催の臨時総会(以下本件総会という。)において、次の内容を有する鶴甲一号館の増築に関する決議(以下本件決議という。)がなされた。

(1) 鶴甲一号館の南側敷地内に、本件各区分建物につき各八畳程度の同一面積の一部屋を、別紙増築目録記載のとおりの工事内容で本件管理組合の事業として、増築(以下本件増築という。)する。

(2) 右増築部分中法定共用部分を除くその余の部分は、これに接続する各区分建物の所有者の所有に帰属するものとする。

(3) 右増築に関する費用(各区分所有者当り金二〇〇万円程度)は、各区分所有者が拠出分担する。

(4) 但し、設計費(四〇〇万円)、ボーリング費(二七万円)その他共用部分登記料等共益的費用(五〇〇万円)は、組合費から支出することとする。

3 本件決議は、区分所有者たる原告芝田の専有部分の変更を、何等の根拠もなく求めるものであるから無効である。

(一) 本件決議は、本件各区分建物に専有部分たる一室を増築しようとするものであって、これに伴い共用部分である建物構造体、屋根、壁、土台、窓等が増築されることとなるが、これらは右専有部分の増築のためのものに過ぎない。また、本件増築には既存専有部分と増築部分の行き来のために既存の専有部分の南側壁面の一部の取り壊しをも工事内容としている。

(二) 区分所有法一七条一項は、共用部分の変更を目的とするものであって、本件増築のごとき専有部分の変更を含まないことは明らかである。建物の主要構造部分の増改築は、規約集会の決議の有無に無関係に禁止されていると解される。

4 仮に、区分所有法一七条一項が共用部分とともに専有部分の増築を含むものであるとしても、本件決議は区分所有法一七条二項等に違反するため無効である。

本件増築がなされたときには、同増築部分は原告芝田所有にかかる本件建物に附合する。このことは原告芝田に新たな専有部分建物部分の所有を、その意思にかかわらず強いるものであり、また既存の原告建物の一部を接続のために取り壊さざるを得ないこととなるので、専有部分の使用に重大な影響を及ぼすものである。

5 仮に本件決議が、鶴甲一号館の共用部分の変更を目的とするものであったとしても、区分所有法一七条二項等に違反することから無効である。

(一) 本件管理組合は、本件決議に基づいて本件増築工事を施工し、それにより原告建物の前面に、共用部分たる、側面は外壁(但し、東と南の各面には壁パネルは設置されず東南角に支柱のみが存する。)及び隣家との隔壁、上部は庇付陸屋根、下部は階下の陸屋根のみを建築して、その結果南側八畳洋室(以下本件部屋という。)の前面に、右外壁等で区切られた東西3.55メートル、南北3.4メートルの屋根付きバルコニー状の鉄骨造の構造物(但し、手すりは設置されていない。)(以下本件構造物という。)を出現させた。

(二) そのため本件部屋は、全く採光、通風、眺望のない部屋になったばかりでなく、右構造物からの夏期における輻射熱等により原告芝田の居住環境は著しく悪化した。このことから明かなように、本件増築工事は、区分所有法一七条一項所定の共用部分の変更を目的とするものではあっても、原告建物の使用に特別の影響を及ぼすものであるから、本件決議においては、同条二項により、右特別の影響を受ける専有部分の所有者たる原告芝田の承諾を必要とするものである。

(三) しかしながら原告芝田は、本件決議に右承諾を与えたことはない。

(四) また、本件増築は、原告芝田が共有持ち分権を有する鶴甲一号館の敷地上に建築されるのであるから、これは民法二五一条所定の共有物の変更に該当するのであるから、全共有者の同意を有する。しかしながら、原告芝田はその旨の同意をしたことはない。

6(一) 本件管理組合は、本件決議は原告芝田を拘束すると主張している。

(二) よって、原告芝田は被告管理者に対して、本件決議の無効の確認を求める。

(後記本案前の主張に対する反論)

原告芝田は、本件決議に基づいて、本件管理組合から本件増築工事に要した工事費の分担を求められているばかりでなく、今後本件増築部分についての維持管理の費用、並びに公租公課の増加による負担を求められるおそれがある。また、区分所有法三八条、四一条によれば、区分所有者の議決権は、その有する専有部分の床面積割合によるのであるから、本件決議は、その専有部分割合の変更に関係する。

従って、原告芝田においては、本件増築工事完成後にあっても本件決議につき、その無効の確認を求める訴訟上の利益がある。

二  被告管理者の反訴請求原因等

(本訴に対する本案前の主張)

本件決議に基づく本件増築工事は、平成二年五月九日付けで神戸市建築主事から検査済証の交付を受けたことから明かなように、既に完了した。従って、原告芝田においては、右決議の無効確認を求める利益がないので、却下されるべきである。

(本訴請求原因に対する認否)

1 原告芝田の本訴請求原因1の(一)(二)(三)、同2記載の各事実は認める。同3の(一)(二)、同4記載の各主張は争うが、区分所有法一七条一項は、共用部分の変更を目的として、その手続要件を定めたもので、それが専有部分の変更を目的としたものでないことは当然である。

2 同5(一)(三)記載の各事実は認める。同5の(二)記載の事実は否認し、その主張は争う。

3 同5の(四)記載の事実のうち、原告芝田が鶴甲一号館の敷地たる本件土地につき、区分建物たる原告建物についての敷地権として、その所有権についての四〇分の一の共有持分権を有していることは認めるが、その主張は争う。

4 同6の(一)記載の事実は認めるが、同6の(二)記載の主張は争う。

(反論)

1 本件管理組合における管理組合規約二七条は、共用部分の変更の他、組合員の共同の利益に係る基本的事項の決定を総会決議事項としているところ、専有部分の増設は右基本的事項に他ならないから、その決定は総会(集会)の決議によることができる。ただ、専有部分の増設は必然的に共用部分の変更を伴うことから、区分所有法一七条一項所定の特別決議を要するにすぎないものである。従って、本件決議が組合員たる原告芝田を拘束するのは当然である。

仮に、本件決議のうち専有部分の増設に関する部分については各区分所有者を拘束せず、各区分所有者の管理組合に対する委託その他任意の選択に委ねられるとしても、本件決議の内の共有部分の増設(変更)に関する部分は有効であるから、右の限度において本件決議が原告芝田に対して効力を及ぼすことは明かである。

2 区分所有法一七条一項所定の共用部分の変更には、新たに共用部分を築造してこれを既存の共用部分に接合することも含むことは論を待たない。

また、原告芝田は、本件増築はその敷地に関する処分に該当するので、区分所有法一七条一項所定の決議の他に同敷地の共有持分権者(四〇分の一)たる同原告の同意を要する旨主張しているが、同主張は、現区分所有法が民法の共有規定の効力を一部排する等して、区分所有建物の管理の充実を図った趣旨を理解しないものである。

3 本件増築は、原告芝田の専有部分たる原告建物の使用に区分所有法一七条二項所定の特別の影響を及ぼすものでないことは明かである。

即ち、右特別の影響とは、「共用部分の変更の必要性・合理性と、これによって受ける当該区分所有者の不利益とを比較衡量して当該区分所有者が受忍すべき限度を超える不利益を受けること」の意義と解されるべきであることは異論がないところ、鶴甲一号館に居住する本件各区分所有者の増築の必要性に比すると、本件構造物の存在によって原告建物がその使用上被る影響は、右特別の影響に該当しないことは明かである。

(反訴請求原因)

1 本訴請求原因1、同2記載の各事実と同旨。

2(一) 本件総会は、「一号館増築の件」を議題として臨時に召集された総会であって、本件管理組合の組合員(区分所有者)四〇名の全員の出席(但し、代理人による出席一二名)により開催された。

(二) 本件決議は、右総会において組合員及び区分所有法上の集会における議決権の三分の二を各々超える、組合員(区分所有者)三八名及び議決権の四〇分の三八の賛成で可決された。なお、反対は、原告芝田及び訴外前野武夫の二名であったが、その後右前野は賛成に転じ本件増築事業に参加するに至っている。

3(一) 本件管理組合は、本件増築に付き平成元年七月一〇日建築確認を受け、訴外株式会社岡工務店との間において建築請負契約を締結したことから、同増築工事は、同年八月一二日に着工された。

(二) 本件管理組合は、原告芝田に対し、平成元年一一月一七日頃、再度本件増築への参加の有無を照会したが、原告芝田においては参加する旨の回答をしなかったことから、原告芝田の専有部分たる原告建物自体部分についての工事は見合わせることとした。そのため同建物については、本件和室の南側前面に本訴請求原因5の(一)記載のとおりの構造の共用部分のみを増築することとした。

(三) 原告建物部分についは当初の計画から右のとおり変更された本件増築工事は、平成元年四月二〇日頃完成したので、建築基準法上必要とされているその旨の変更・完成届をし、同月二四日には所定の竣工検査終了後、工事業者たる前記岡工務店からその引渡しを受けた。また、神戸市当局からは、同年五月九日付で検査済証の交付を受けた。

4(一) 本件増築工事において、本件各区分所有者の共用部分の増築に要した費用は、金七七七六万五〇〇〇円(消費税相当分二二六万五〇〇〇円を含む)であった。

(二) 原告芝田の共用部分に対する共有持ち分権は四〇分の一である。

(三) 原告芝田は、本件決議によって定まった鶴甲一号館の共用部分の変更に関して従う義務があるので、右共用部分建築費用総額の四〇分の一である金一九四万四一二五円(以下本件費用という。)を負担する義務がある。

よって、鶴甲一号館の管理者たる被告管理者は、原告芝田に対して本件費用の支払いを求める。

(反訴抗弁等に対する認否)

本訴請求原因における認否並びに反論と同旨である。

三  原告芝田の反訴請求原因に対する認否並びに反訴抗弁等

(認否)

1 反訴請求原因1記載の事実は認める。

2 同2の(一)(二)記載の事実のうち、本件総会において原告芝田と訴外前野が本件決議につき反対したことは認めるが、その余の事実は否認ないし争う。同3の(一)ないし(三)記載の事実のうち、本件増築工事が平成元年八月頃着工され平成二年四月頃完成したこと、原告芝田においてはその専有部分についての増築工事に参加しなかったことは認めるが、その余の事実は不知。

3 同4の(二)記載の事実は認めるが、同4の(一)記載の事実は不知、同4の(三)記載の主張は争う。

(抗弁等)

1 本件決議は、本訴請求原因3に記載のとおり、それ自体無効である。

2 又は右同請求原因4ないし5に記載のとおり、本件決議は、原告芝田が所有する専有部分の建物たる原告建物の使用に特別の影響を及ぼす共用部分の変更を目的とするものであるから、区分所有法一七条二項により原告芝田の承諾を必要とするところ、原告芝田においては、その承諾をしたことはないので、本件決議は無効である。

第三 証拠〈省略〉

理由

第一(本訴について)

一(本案前の主張について)

被告管理者は、本件決議に基づく本件増築工事は既に完了しているのであるから、原告芝田は本件決議の無効の確認を求める訴えの利益がない旨主張しているが、本件決議は事実行為たる増築工事の施工のみを定めたものではなく、本件増築工事を本件管理組合の事業として行い、その費用を区分所有者が拠出することを定める等していて、本件増築工事の施工に伴う本件管理組合と原告芝田らの区分所有者間の種々の法的関係の基礎をなすものであることは、その主張上明かである。

従って、本件増築工事完了後においても、本件決議の効力の有無についての確認を求めることは、本件決議を前提ないし基礎とする個々の法律関係の効力の有無の確認では得られない、右当事者間の全体的法的安定に直哉に資するものと判断される。よって、本件決議については、本件増築工事の完了の有無を問わず確認の利益が認められるので、被告管理者の本案前の主張は採用できない。

二(本訴請求原因について)

1  原告芝田を含む鶴甲一号館の区分所有者全員四〇名全員は、組合員として本件管理組合を構成していること、被告管理者は本件管理組合の理事長であって同組合規約により区分所有法所定の管理者に就任しているものであることは本訴請求原因1の(一)ないし(三)記載のとおりであること、同請求原因2に記載のとおり本件総会において本件決議がなされたことは当事者間に争いがない。

2  また、本件管理組合は、本件決議は原告芝田を拘束すると主張していることは当事者間に争いがないところではあるが、弁論の全趣旨によれば、本件管理組合は、原告芝田においては同管理組合の組合員として本件決議によって定められた、鶴甲一号館の南側に各区分所有者がそれぞれその専有部分につき八畳程度の部屋の増築をなすこと、及びそれを可能にしうるように同一号館の共用部分を変更して、共用部分たる隔壁、外壁等を新たに建築し、これを旧外壁等に接合する工事をすることを承認すること、並びに希望する各組合員が自己の費用を以てしてではあるが、右の新たな共用部分についての建築工事と同時にする右各専有部分の増築工事(各区分所有者は、本件決議に賛成することによって管理組合に右増築工事を依頼したことになる。)につき、同組合が右共用部分の増築に付帯してその事業としてなすことについても、これを本件規約における組合員の共通の利益に係るものとして承認せねばならないこととして、拘束されるべきであると主張していることは認められるが、原告が本件決議の拘束力によりその専有部分たる原告建物部分について、その増築工事を本件管理組合に依頼して又は自ら行なわなければならないものであると主張するものでないことは、本件反訴の趣旨等から明かである。

従って、本件決議は、原告芝田にその所有する区分所有建物である原告建物自体の増築を強要するものであるから無効である旨の本訴請求原因3記載の原告芝田の主張については、その主張の前提が異なるため採用の余地はない。

なお、同原告の同請求原因3の(二)記載の区分所有法一七条一項の解釈は全く独自の見解であって採用できない。

3(一)  本件決議に基づく共用部分の増築として、原告建物のうちの本件部屋の南側前面に本訴請求原因5の(一)記載のとおりの構造物(以下本件構造物という。)が建築されたことは当事者間に争いがない。

(二) ところで、区分所有法一七条二項所定の「専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、共用部分の変更自体により又はそのための工事等の結果、特定の区分所有者が一棟の建物に共同して区分建物を所有するものとして、その共同性からの制約から受忍すべき限度を超える特別の影響を受けるときと解すべきである。そして右の受忍限度の判断においては、共用部分を変更することによってもたらされる各区分所有者の利益と、これにより影響を被る特定の区分所有者の不利益の比較が当然考慮されるべきである。

(三)  しかるところ、原告芝田の本人尋問の結果及び〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、原告建物の本件部屋は、本件構造物が築造されたことからその日照、採光等が多少損なわれ、また同部屋の窓からの東側方向の眺望が制限されたことは認められるところである。

しかしながら、〈書証番号略〉並びに弁論の全趣旨によれば、本件組合員のほとんどは勤労者世帯であって鶴甲一号館の各区分建物にその家族と共に現に居住しているが、その区分建物はいずれも専有部分の床面積が55.52平方メートル(いわゆる三DKの間取り)と狭小であったことから、原告芝田他一名を除く組合員の本件増築工事についての希望は、生活上の必要から大部分の者にとっては切実なものがあったこと、そして本件増築完了後においても既存の各区分建物に対しては、その増築が南側前面になされた部屋においてのみではあるが採光等に影響が存したことは前記原告建物に関して認定したとおりであるが、その採光等の低下はわずかなものであり、日照についてもある程度確保されていること、また眺望の制限によっても特に原告建物においてはその位置が五階と高所に存することから圧迫感等が生ずるようなことはないことが認められるところである。

(四)  そこで、右判示の事実関係を総合して判断するときには、本件増築工事が原告建物の使用に及ぼす影響は、原告芝田が区分所有者として当然受忍すべき限度内のものであって、それが区分所有法一七条二項に該当する特別の影響を及ぼすものとは到底判断することはできない。

従って、本件増築をなすについては区分所有法一七条二項により原告の承諾を要するところ本件決議はそれに違反しているので無効であるとする本訴請求原因四及び五記載の原告芝田の主張は採用できない。

(五)  なお、原告芝田は、「本件増築は、原告芝田が共有持ち分権を有する鶴甲一号館の敷地上に建築されるのであるから、これは民法二五一条所定の共有物の変更に該当するのであるから、全共有者の同意を有する。」旨主張しているところ、原告芝田は、鶴甲一号館の敷地たる本件土地につき、区分建物たる原告建物についての敷地権として、その所有権についての四〇分の一の共有持分権を有していることは当事者間に争いがない。しかしながら、区分所有建物の敷地が共有である場合には、その敷地の利用方法の変更等に関しては民法における共有の規定に優先して区分所有法二一条が適用されるべきことは疑いがない。そこで同条所定の共有部分の変更についての同法一七条一項所定の決議が存するときには、共有持分権者たる組合員全員の同意がない場合においても、本件敷地上に鶴甲一号館の共有部分を増築することができる。従って、原告芝田の右同主張も採用できない。

第二(反訴)

一(反訴請求原因について)

1  本件総会において本件決議がなされたこと、及び被告管理者及び原告芝田の地位等に関する反訴請求原因1記載の事実、並びに本件決議においては原告芝田と訴外前野が反対したことは当事者間に争いがない。

2  〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、本件総会は、「鶴甲一号館増築の件」を議題として召集された臨時総会であって、組合員の全員出席(但し、代理人による出席一二名を含む)により開催され、本件決議は組合員の員数及び議決権の各三分の二を超える(各四〇分の三八)賛成を以て可決されたこと、並びに本件決議に反対した二名のうちの一人である訴外前野は、その後本件決議に賛成の立場に転じて、本件増築工事に参加するに至っていることが認められる。

3  しかるところ本件決議に基づく本件増築工事は平成二年四月頃完成したことは当事者間に争いがなく、〈書証番号略〉、証人蓮池義寿の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件管理組合は、本件増築に付き平成元年七月一〇日建築確認を受け、訴外株式会社岡工務店との間において建築請負契約を締結したこと、同増築工事は、同年八月一二日に着工されたこと、そこで、本件管理組合は、原告芝田に対し、平成元年一一月一七日頃再度本件増築への参加の有無を照会したが、原告芝田においては参加する旨の回答をしなかったこと、そのため、本件管理組合は、原告芝田の専有部分たる原告建物自体部分についての工事は見合わせることとして、同建物については、、共用部分のみを増築することとし、前認定のとおり原告建物の本件部屋の南側前面に本件構造物が建築されたこと、本件増築工事は、平成元年四月二〇日頃完成したので、右の工事変更に伴って建築基準法上必要とされているその旨の変更・完成届をし、同月二四日には所定の竣工検査終了後、工事業者たる前記岡工務店からその引渡しを受けたこと、神戸市当局からは、同年五月九日付で検査済証の交付を受けたことが認められる。

そして原告芝田の共用部分に対する共有持ち分権は四〇分の一であることは当事者間に争いがないところ、右掲記の各証拠によれば、本件増築工事において、本件各区分所有者の共用部分の増築には、金七七七六万五〇〇〇円(消費税相当分二二六万五〇〇〇円を含む)の費用を要したこと(その四〇分の一は金一九四万四一二五円である。)ことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二(反訴抗弁について)

原告芝田が反訴抗弁として主張している、本件決議はそれ自体無効である、又は同決議は区分所有法一七条二項に違反しているので無効である旨の本訴請求原因3ないし5記載の各主張はいずれも採用できないことは、前記のとおりである。

第三(結び)

以上判示の事実関係及び判断によれば、原告芝田の本件決議につきその無効の確認を求める本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとするが、被告管理者の本件決議に基づく本件増築工事の費用のうち、原告芝田が四〇分の一の共有持分権を有する本件組合の組合員として負担すべき本件費用の支払いを求める反訴請求は理由があることが明かであるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条に、仮執行宣言については同法一九六条一項に則って、主文のとおり判決する。

(裁判官廣田民生)

別紙物件目録

(一) 土地

所在 神戸市灘区鶴甲二丁目二番一五

地目 宅地

地積 2335.57平方メートル

(二) 一棟の建物の表示

所在 神戸市灘区鶴甲二丁目二番地一五

建物番号 鶴甲コーポ一号館

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根五階建

床面積 一ないし五階 各507.76平方メートル

敷地権の目的たる土地の表示 右(一)の土地と同じ

専有部分家屋番号 二―一五―一ないし四〇

(三) 専有部分の建物の表示

家屋番号 鶴甲二丁目二番一五の三七

建物番号 鶴甲コーポ一号館五〇五

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造一階建

床面積 五階部分 55.52平方メートル

敷地権の目的たる土地の表示 右(一)の土地と同じ

敷地権の種類 所有権

敷地権の割合 四〇分の一

(四) 専有部分の建物の表示

家屋番号 鶴甲二丁目二番一五の八

建物番号 鶴甲コーポ一号館一〇八

床面積 一階部分 55.52平方メートル

その他は右(三)に同じ

別紙増築目録

物件目録(一)記載の土地上に同目録(二)記載の一棟の建物の各区分建物中いずれも南側六畳和室の南側に接続して、鉄骨造陸屋根五階建の構造をもって、一区分建物当り東西3.55メートル、南北3.4メートル、床面積12.07平方メートル(各階計96.56平方メートル)とする各一室宛の増築工事

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